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ガチ恋とセカイ系の同一性について、反省しつつ考える

 こんにちは。記事タイトルにガチ恋と入れておいて何ですが、私はガチ恋系の俳優ファンでは決してありません。確かにハマったばかりの頃はガチ恋っぽい言動を繰り返し、自分の置かれた現実と妄想の乖離に毎晩泣いたりしていましたが時間の経過とともに軽減され、今は普通にこうして客観的に自身の状況を観察できるまでになっています。これが成長であり慣れなのです。おお慣れとはかくも恐ろしい……。

 

 唐突なので違和感を覚えられる方もいるかもしれませんが、私は俳優ヲタである以前に読書好きです。SFやエンタメ小説やノンフィクションが好きです。特に拘りが強いわけではないのでなんでも読みます。 

セカイ系とは何か (星海社文庫)

セカイ系とは何か (星海社文庫)

 

 

 そもそもセカイ系とは、1995年から1996年にかけてTVシリーズが放映された「新世紀エヴァンゲリオン」から派生したサブカルチャーにおける用語、いわゆるヲタク的バズワードです。エヴァンゲリオンは簡単に言ってしまうならば*1男子中学生が突然ロボットの操縦士に選ばれ2クールかけて延々とウジウジしながら精神世界に到達する話なのですが、この作品は日本のサブカルチャー界に大きな影響を与えました。

 「長ったらしく、帰結の見出だせないヘタレ主人公の一人語り」「主人公の思考を世界の崩壊とか全ての終わりとかに結びつけてしまう一種の荒唐無稽さ」という大きな特徴を「エヴァ」から受け継いだゼロ年代前半の作品群は、サブカル系論壇から「ポストエヴァ症候群」と形容されるに至り、やがて「セカイ系」という識別符号が与えられたのです。

 セカイ系(的なもの)に共通する特徴としては、

  • 主人公とヒロインを中心とした小さな一対一の関係性がなんの根拠もないまま突如として世界の危機に直結する(例:「涼宮ハルヒの憂鬱」にみられる「ハルヒの機嫌が悪くなると『神人』が出現し、破壊行動をする」描写)
  • しかし主人公(とヒロイン)は一方で日常生活も普通に送っているので、完全なファンタジー作品ではない
  • 精神、内面描写を重視しているので往々にして主人公の一人語りが長い(→ライトノベルエロゲー媒体との親和性が高い)

 いろいろな解釈はありますが、最大公約数的な受け取り方をするのなら多分こうなるんだと思います。

 

 一方ガチ恋とは、簡易に説明してしまうなら「決して叶うことはない対象に、少しでも「叶うだろう」という望みを抱えて恋をしてしまう現象」です。 

 昨今のインターネットの発展により、細々とガチ恋をしていたヲタクの皆さんは「意外と世の中に自分のような感情を抱いている人間は多い」という事実に気づいてしまい、10年代においてアイドル現場を発端とする「ガチ恋」の文化はやがて「ガチ恋という人種」として市民権を得るに至りました。いろいろな「対象が好きすぎて苦しい人たち」がガチ恋というワードを見つけることによってアイデンティティを確保し始めたのです。

 そしてガチ恋とセカイ系は恐ろしく類似しています。 

  •  自分と推しを中心とした小さな一対一の関係性*2なんの根拠もないまま突如として世界(自分のメンタル、日常生活)の危機に直結する
  • しかし自分(と推し)は一方で日常生活も普通に送っているので、完全な病気や妄想の症状ではない
  • 所詮現場は多くても週に数度なので他の時間は自分と向き合って過ごすことになり、精神、内面に対する一人での思考が多い

 もっと短絡的に表現してしまうならば、「推しの機嫌ひとつで世界は天国にも地獄にも感じられる」という側面です。

 ガチ恋とセカイ系の慄然的な一致について考えるとき、「エヴァ」作中での碇シンジについて振り返ると凡そ納得がいきます。

 碇シンジが人型兵器エヴァンゲリオンに乗る理由は最初はヒロインが傷ついていたからその身代わりとして、のちには父親に褒められたいから、あるいは周囲に期待されているから、というよう変遷こそするものの『自分が地球を守るんだ、敵を倒すんだ』という強い意志はない。そこにあるのは周囲の期待に応えたいという自分周辺のみの動機であった。

 ガチ恋は往々にして身勝手です。純粋にアイドルやタレントを応援しているはずなのに、応援している対象が気に入らない言動をするとものすごく貶すこともあります。愛ゆえ、という理由もありますが、それ以上に「自分の好きな(理想とする)対象でいてほしい」という強烈な欲求がそこに存在する。

 エヴァンゲリオンについて語られるとき、「理想化と脱価値化」というワードをよく目にします。防衛機制*3の一種であり、境界性パーソナリティ障害(以下「境界例」と呼称)に多くみられる行動です。理想化とは相手を現実よりも極度に持ち上げ、崇拝してしまうこと。脱価値化はその逆で、相手を必要以上にこき下ろしてしまうことです。多かれ少なかれ、重いヲタクの皆さんはそのような側面を持っているのではないかと思います。

 ジャニヲタに多く見られる「本気愛」と「貶し愛」の文化に明確ですが、「かっこいい~~~~~」とはしゃいだ後に「こいつブスだろマジで」という発言をするのはまさしく理想化と脱価値化の現象そのものです。もともとアイドルの応援って境界例に近いものを内包しているのかもしれませんが、ガチ恋は最も重度のアイドルヲタク境界例といえるでしょう。

 境界例の女の子によくある例としては、「彼氏に愛されている実感がないので極端な行動*4を繰り返し彼氏の愛を試しているうちに精神的なダメージを負った彼氏が別れを切り出す、或いは彼氏も精神病になってしまう」というエピソードが語られます。境界例の大きな特徴としては「どれだけの愛を注がれても、愛に不安を覚える」ということが挙げられます。そして客観的に必要以上の愛を与えられていたとしても、足りないと相手を責めたりする。

 冷静に考えるならば一人の彼氏から与えられる愛なんて無くたって別に平気なのですが、境界例の場合は平気ではないのです。彼氏そのものが世界で、愛の有無は世界の存亡に直結します。

 さて、ヲタクに置き換えてみるとどうでしょう。どれだけ多くの接触をしても、どれだけ多く積んだとしても不安を覚える。そう、冷静に考えるならば推しや自担なんて人生においてはいなくたって平気なのですが、平気ではないのです。対象そのものが世界で、対象から与えられる「なにか大切なもの」の有無は世界の存亡に直結する。そして「干される」などして必要としているものが与えられないと、世界を憎むかのように対象を憎むのです。

 「干された時にヲタクがアイドルを責めたり恨んだりするのはおかしい」という意見をよく目にしますが、その正論もこのような思考の前には無力です。世界存亡の危機なのです。

 ガチ恋ヲタクに多い「世界には◯◯ちゃん(くん)しか要らない」 という言動、思考は他でもないセカイ系そのものです。なぜなら他でもない、「世界」そのものだから。他にはなにも要りません。

◯◯くん(ちゃん)に干された。病んだ。死のう。

  現場後のインターネットにに溢れるネタなのか本気なのかわからない言動ですが、少なくとも身の回りには本気で発言している人が多いということを後学のために一応明記しておきます。自分にとっての「世界」は他でもない推し、自担、対象そのものが世界なのです。

 少しでも異性の影がチラつくとめちゃめちゃ病んでリストカットオーバードーズに走り、他のヲタクに構っているところを見てしまえば会場前で人目を憚らずに号泣。このような行動様式は他人から見れば単なるキチガイメンヘラでしかありませんが、当人にとっては世界が終わるかどうかの一大事なので仕方ありません。明日隕石が降ってくるとか、地球が謎の植物に侵略されてみんな家畜になるとかそういう事態になったらみんな泣くでしょ。そういうことです。

 

 

 結局のところはアイドルはアイドル、俳優は俳優だしタレントはタレントなので、例えばアイドルを勝手に「自分にとっての世界そのもの」にしてはいけないことはよくわかっています。私はよくわかっているし、ガチ恋ヲタクの皆さんも心のどこかでは理解しているでしょう。

 ですが何かと「距離が近い」が謳われて芸能人が売り出される昨今、やはり色々と混乱してしまってガチ恋に陥る人はこれからも無限に増えていくでしょう。それを止めることはできません。死人が出ないように祈るしかありません。「最終兵器彼女」や「ほしのこえ」を見れば、ちょっとは擬似的に「あなたとわたし」の世界の崩壊を体験できて楽な気分になれるかもしれません。

 「推しと自分の関係性」はそれ以上でも、以下でもありません。非ガチ恋の世界観を持つ人間からは「勘違いヲタク」というワードで纏められることが多いガチ恋の世界観ですが、確かに勘違いとしか言いようがありません。なぜなら世界は世界でしかないからです。

 世界は揺らぎないし、災害などはあるにしてもとりあえずずっと続いていきます。別に最前で無視されたからといって世界が滅びるわけではないのですが、滅びると思ってしまうので「勘違い」という形容は非常に正しいでしょう。正しすぎて書いていて胸が痛くなってきました。

 しかし世界が滅びるのは阻止したいので、自分の生活を犠牲にして「世界=推しと自分」の関係性を保とうとしてしまうこともあります。学校を休んだり、自分のキャパシティを無視して働いたり、同じ公演に20回行くのに家族には1回と言ったりしてしまいます。そうしないと世界が滅びてしまうと心の底から信じているからです。

 

 長々と書きましたが、私は正直ガチ恋精神世界に陥っているヲタクを救い出せる自信はありません。そういうものなので、目が覚めるのを待つしかないのではないかと思います。この絶望感こそが「セカイ系」の魅力なのかもしれません。「あなたとわたしの世界」は当人たち以外に壊すことは不可能だから。

 身の丈に合った応援をしよう、としか言いようがないので、なんだか救いのない投げやりな記事になってしまいそうです。

 Negiccoの「アイドルばかり聴かないで」という名曲がお勧めです。是非どうぞ。


Negicco / アイドルばかり聴かないで MV(full ver.) - YouTube

*1:本項の内容とはぶっちゃけあんまり関係ないので割愛しますが中身はもっと深くて面白い話です。ヲタクの皆さんごめんなさい

*2:客観的に見てさっぱりあるかわからないのにも関わらず、ガチ恋ヲタクはだいたい推しと自分の関係性の存在を心の底から信じている

*3:精神病理用語であり、自我のメカニズムパターンを指す

*4:狂言自殺、家出、リストカット