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相対性理論というバンドに関する雑感(ライブ「相対性理論presents八角形」)

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 2016年7月22日、わたしは相対性理論の武道館ライブ「相対性理論presents八角形」を観に行った。

 わたしが初めて相対性理論を聴いたのは、小学生のときだった。アルバム「シフォン主義」と「ハイファイ新書」しか出ていない頃で、ニコニコ動画に上がっていた「LOVEずっきゅん」や「地獄先生」を聴いて夢中になり、当時はまだ僅かにMD文化が残っていたのでフルアルバムを借りて「ハイファイ新書」をラジカセでMDにダビングして友達に貸したりしていた。


LOVEずっきゅん 【PV】 相対性理論

 「LOVEずっきゅん」のPVには暗号が隠されているという話にワクワクしたり、ニコニコ動画では相対性理論楽曲のMADが乱立したり、当時ネット上でにわかに相対性理論ブームが起きていたように記憶している。そんな中発売されたのが、3枚目のアルバム「シンクロニシティーン」だった。

 中学生になっていたわたしは毎日毎日夢中になってそれを聴いた。キャッチーな「シンデレラ」で始まり、「LOVEずっきゅん」の伏線を回収した「ミス・パラレルワールド」、「気になるあの娘」、そして最後に少しプログレチックで幻想的な「ムーンライト銀河」で終わるアルバムはまさに相対性理論の集大成といっても過言ではないと思う1枚だった。

 その後ボーカルのやくしまるえつこ氏は一時期ソロ活動に転向し、「荒川アンダーザブリッジ」のOPになった「ヴィーナスとジーザス」「COSMOS vs ALIEN」、「四畳半神話大系」のED「神様のいうとおり」、「輪るピングドラム」のOPになった「ノルニル/少年よ我に帰れ」は記憶にある人も多いと思う。これらの作品によって一部ではアニソン歌手という捉え方をされていることもあるやくしまる氏だけど、相対性理論からやくしまるワールドに入ったわたしとしては、あくまでもやくしまる氏は「やくしまるワールド」だという認識を崩すことがなかった。

 相対性理論の新譜は、2010年の「シンクロニシティーン」以降、3年間出ることがなかった。(その間には2011年の「正しい相対性理論」発売を挟んでいるが、3曲の新曲を除いては他アーティストによるリミックス作品。ただし、SPANK HAPPY菊地成孔氏による「(恋は)百年戦争」「マイハートハードピンチ」のリミックス、アート・リンゼイ氏による「バーモント・キッス」リミックス、スチャダラパーによる「テレ東」リミックス、そしてコーネリアス小山田圭吾氏による「ミス・パラレルワールド」リミックスなど、傑作の充実したアルバムではあった。新曲「Q&Q」「Q/P」「(1+1)」も好きだったし)

 

 しかし、2012年にバンドの中心人物だった真部脩一氏と西浦謙助氏が脱退した。

 初期の「おはようオーパーツ」などに見られる男声ゆるコーラスや、「夏の黄金比」における「コントレックス箱買い」連呼のような「抜け感」はこれ以降、消滅したように思う。3年間の沈黙を経て2013年に5枚目のアルバム「TOWN AGE」が発売されたときは、素直に驚いた。感触が違う、と率直に思った。どちらかといえばやくしまる氏のソロ寄りのサウンドになっている、と思ったし、やくしまる氏がアニソン制作の中で得たキャッチーさをこの1枚に凝縮しているのか、というのが1枚聴き終えて得た感想だった。

 「少年よ我に帰れ」を、わたしはプログレだと思っている。正確にはプログレニューウェイブの中間と言うべきか。Cメロ以降の盛り上がりと唐突に現れるオーケストラ的感動的展開はまさしくプログレッシブ・ロックの体裁を取っているような気がしてならない。そのプログレ展開が最も現れているのが、「TOWN AGE」に収録されている「たまたまニュータウン」別バージョンの「たまたまニュータウン(2DK session)」だ。


相対性理論『たまたまニュータウン (2DK session) 』

 「シンクロニシティーン」に比べれば、「TOWN AGE」は相対性理論に初めてとっかかる人にとっては「聴きやすい」かもしれない。でも真部・西浦脱退によって、曲ひとつひとつに込められた奇妙な濃度みたいなものは絶対に薄くなったと思う。 ネット上ではそれを理由に、相対性理論リスナーから離れていく人がたくさんいた。

 それからまた3年の時を経て、2016年に発売された「天声ジングル」をまた、わたしは聴いた。

 わたしは初めて相対性理論を聴いてから7年が経っていた。

 人生で初めて、相対性理論のライブに足を運ぶことにした。2016年7月22日、15分ほど押して開演したそのライブは「LOVEずっきゅん」などの往年の(と、言うと懐かしバンドみたいになってしまうけど)ナンバーを含んでいたけれど、あくまでも「新作アルバムのレコ発ライブ」にこだわり、「天声ジングル」収録曲を中心とした構成になっていた。

 わたしはこのライブにとある既視感を覚えた。それは、1978年から1983年にかけて活動したイエロー・マジック・オーケストラが1983年の解散ライブ(アルバム「アフター・サーヴィス」所収)で「Tong Poo 東風」「BEHIND THE MASK」「中国女」「Technopolis」「RYDEEN」「君に、胸キュン。」そしてラストに「FIRECRACKER」といったヒット・パレードを繰り広げたこととは対照的に、1993年にYMOが再結成=「再生」した際の東京ドームライブ(アルバム「テクノドン・ライヴ」所収)では新作アルバム「TECHNODON」収録曲の演奏に徹し、かの「ライディーン」でさえも一瞬に近い時間しか演奏しなかった(それはある種のサプライズとファン・サーヴィスでもあった)ことに近いものだった。

 相対性理論は、武道館であろうとも、相対性理論に徹する。

 武道館ライブの途中、15分を超える長い長いインストが演奏された。やくしまる氏退場の中で演奏されたそれは、まさしくプログレッシブ・ロックのそれだった。その瞬間、わたしは、相対性理論プログレバンドになったんだ、と思った。ヒットメーカーとしての「やくしまるえつこ」が、ソフトウェアとして使う「相対性理論」でやりたいことを、やる。武道館全体に響き渡るギターの音と時折断絶的に流れるやくしまる氏の「地球は、」という音声。

 最初にPVで流れた「FLASHBACK」と最後に演奏された「FLASHBACK」で、わたしはますますその確信を強めた。

 真部・西浦時代の相対性理論は、ポップでキャッチーでちょっと変なロックをやってる、という認識をされることの多いバンドだったように思う。でも2人の脱退、そしてやくしまる氏のアニソン制作経験、新バンドのメンバー、それらの融合によって結果生み出されたのが「天声ジングル」だった。それは「FLASHBACK」と「ウルトラソーダ」が同じアルバムに収録されていることだったり、長いプログレコーナーのあとに「Z女戦争」が演奏されることだったりした。

 満員の武道館の中で、誰も立たず、息を呑むようにして、1万人の観衆がやくしまるえつこを見つめていた。

 それはライブというよりも、やくしまるえつこ教の集会に近かったな、とわたしは思った。それは「やくしまるえつこワールド」に引き込まれた人々による、一種のミサのようなものだった。

 

 19歳になったわたしは、まだ「LOVEずっきゅん」の暗号が氷解するのを楽しみにしている。武道館で聴いた「地獄先生」は、わたしに7年前の記憶を、MDのカセットを、友達に貸して返ってきたときの手紙を、鮮明にまざまざと思い出させてくれた。わたしはまだまだこれからもやくしまるえつこ教の信者でいるつもりだ。そしてときどき、ミサにも行くつもりだ。