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舞台、俳優DD、サブカルかぶれ等

いつか白き虎となり、狼をも超える。

 武士白虎~もののふ白き虎~を観てきました。東京公演の全16回を観劇した時点での感想ですので、まだ大千秋楽は迎えていないですし、ざっくりしているのですが、なんとなくいま書いておかないと忘れちゃうことがいっぱいありそうだから書きます。

 

 本作は横浜流星くんの舞台初主演作品です。(正確にはダブル主演なので、初"単独"主演は今冬の「スーパーダンガンロンパ2」です)かれこれトッキュウジャー時代から横浜くんを粘着的に追いかけ続け1年半弱、念願の初主演ということでものすごくテンション高くわくわくしながら初日を迎えたわたしでした。ちなみに開始時点ではキャストに関する前情報がほぼゼロだったんですが結論としては全員の顔と名前が現在一致してます! すばらしい! 人間、学習しようとすれば意外と学習できるんだ!

 

「土方さんなら俺とお前、どっちの生き方を選ぶと思う?」

 初日初演。幕があいて、いきなり安西くんが書道を始めます。えっ!? 書道!? バカなわたしはそれが手紙であると気づけず、しかも初演で安西くんは半紙をぺろーんと風に吹き飛ばして若干手を伸ばして拾っていたので、これは書道ガールズ的な!?もしや白虎隊が書道で全国大会を目指して打倒新政府を狙う的な話なのか!?と思ってたら全然違った上に横浜くんが舞台の奥から出てきました。そしてなんの説明もなしにこう彼は語りかけます。

「お前は死なずに残ってくれ。戦況が変わる一縷の望みを、お前に託したい」

「……悌次郎」

「貞吉。土方さんなら、俺とお前、どっちの生き方を選ぶと思う?」

 わたし(予習なし)「全然わかんねえ」

 このときわたしの脳裏には友達の土方さん(黒髪ストレートぱっつん美少女)の顔が浮かんでいました。全然関係ねえ。青っぽいライティング、幻想的な雰囲気の中、横浜くん(以下、悌次郎)と安西くん(以下、貞吉)は引き離されていきます。こ、これは……スピリチュアル舞台かよ……。

 とか思ってたらいかつい衣装を着た斎藤一役の青木玄徳さんが登場して陽気に酒を飲み始めます。「おまえも人生の倍を生きたってわけだ」と貞吉に語りかける斎藤。「もののふ白き虎」のストーリーは、白虎隊が自害し会津戦争が終結してから14年後の貞吉と斎藤が過去を振り返る、という形で進んでいくのです。

 

 白虎隊の子たちは、みんなとにかく殺陣に勢いがあって、それでいてギャグシーンになるとかわいらしく、戦闘だとヒロイックで。まさに少年期特有の不安定さをうまく描写できていて素晴らしいな、と思います。

 悌次郎は完全無欠でクール、それでいてちょっと熱血なリーダー格のキャラ。あまりにも美化されすぎているように見えるけれど、その理由は後述します。

 松本享恭くん演じる石田和助は「やったるどーーーい!」に定評のあるお調子者だけど、肝心なところでめっちゃ良いセリフ持っていって死に際もかっこいいっていうある意味一番"ずるい"かもしれない子。松本くんは今回が初舞台だと知ってびっくりしました!殺陣にもちゃんと強さの中にもときおり優しさを見せる「和助らしさ」が出ていて、キャリアの浅さを全然感じさせない。

 白虎隊が破滅に向かっていく大きなきっかけとして中盤にある「和助の死」というイベントがあって、和助の死がなければ保鉄は最後に生きる選択をしなかっただろうし、すっごく良い役です。

 白又敦くん演じる井深茂太郎は登場時におまんじゅうをもぐもぐしてます(かわいい)。頭がいいけど、頭がいいゆえに考え過ぎちゃう子なんだと思う。ちょっとひとりで考えを巡らせて勝手に追い詰められちゃうタイプな気がする。

 松村龍之介くん演じる西川勝太郎は「父上が一刀流の達人」で、その名に負けず松村くんもめちゃくちゃ殺陣がうまい…! 初陣のシーンかな?くるくるっと3回転くらいしてから刀をバシバシ振りまわす場面があって、そしてきっと幼少時から厳しい稽古をつけられてきたんだろうなあときちんと役の設定まで感じさせてくれる「自信満々の刀」をみせてくれるのが素晴らしい。流星くんはアフタートークで殺陣について意識してる?と訊かれたときに「悌次郎は優等生的な立ち回りにするように心がけている」と答えていたように、きめ細やかでひとつひとつの動きをきれいに見せる、きっと模範的で倫理に沿っているんだろうなという殺陣をするけれど、松村くんの殺陣は「絶対殺す!!絶対殺す!!!!!」って感じ(本当にそんな感じなので観てほしい)。獣みたいな力強さ。

 河原田巧也くん演じる池上新太郎は「すべてにおいて対応できる侍」。白虎隊においては「野心」を背負っている象徴で、土方さんに「言っときますけど俺は近藤さん派ですから!ハァーン!」って言っちゃったりする子。茂太郎、勝太郎、新太郎の関係性がほんとに好きなんですよねわたし。この3人でスピンオフ作ってくれないかな……。「な、愛があったろ?」「そうでもねえよ」の勝太郎と新太郎の見つめ合って首こてん、とか大好き!カワイイ!

 和田琢磨くん演じる篠田儀三郎。通称ぎーちゃん。最高にカワイイみんなのお兄さんです。とにかくぎーちゃんと虎っこたちの関係性が最高にカワイイ…!何度でもみたくなる…! 特にぎーちゃんと保鉄のコンビが実はすきなんです。本当に優しいんだな、って。ぎーちゃんは中盤でかなえちゃんという女の子(まじかわいい)との淡い恋物語があるんですが、結論からいえば成就しません。胸が張り裂けるような決断をぎーちゃんはして、会津のために戦うことを選ぶ。笑ってたけど、ぎーちゃんは結局失恋したあとに泣いちゃうんですよね。それを茶化しながらもちゃんと励ます虎っこたちがあまりにも健気でかわいくて…。なにげない日常描写が多いほど死ぬときに泣けるっていうのは創作の鉄板ではありますが、武士白虎の卑怯なところってこういうのだと思う。ぎーちゃんとかなえちゃんの逢瀬を覗き見するシーンとか本当しょうもなくて笑えるよ。

 そして小澤亮太くん演じる庄田保鉄は、最初はただの病弱キャラ。結論からいうと、彼は敵軍におかあさんを人質にとられて脅されていたので、それはお腹もいたくなるよなって感じです。序盤で稽古をさぼっていたのはおかあさんのことからくる精神的ストレスで本気でお腹が痛かったのか、それとも敵軍と繋がっているがゆえこれから会津は負けるんだという確信をもった絶望からだったのか……。でも観客サイドからだとただの病弱キャラにしかみえない保鉄もなんだかんだいって白虎隊の面々に優しくされているので、きっと作中で描かれる以前からの深い絆があるんだろうな。

 裏切っていたことを告白し、白虎隊の面々に受け入れられてからも彼の心の中にはずっと裏切り者という負い目があったけれど、最後に貞吉が保鉄に救いの言葉をかけます。

仲間を救ってやってくれ。お前も虎だから

 内心ずっと疎外感を覚えていたであろう保鉄が貞吉に認められて、泣きながらも笑顔をみせて走っていくから、ああ良かったねって掛け値なしにおもえるんです。

 

 そして新選組のふたり。いろいろな描写はあるけれど、やっぱり貞吉の視点だとどうしても「憧れ」という漠然としたイメージになってしまいこの舞台ではふたりの具体的なエピソードはいまいち見えてこないんです。それでいいんだけど。それは貞吉にとってふたりが遠いキラキラした存在だったからだと思う。だから過剰に美化されてても、土方さんが意外に普通に人間っぽいけど彼らが異様に崇拝しててもいいんです。それが貞吉の主観だから。

「あいつはお前に憧れてるぞ!」

 武士白虎を繰り返し観ていると、貞吉という人物の具体像がほとんと描かれず、ぼんやりとした人物設定のみで進行していくことに気づけるかと思います。それはこの作品が貞吉の回想であり妄想であり記憶そのものを再生しているだけの構造だから。悌次郎に関しては過剰なまでに、カリスマ、天才、「お前はすごいよ……」というため息混じりの賞賛で描かれるのに、貞吉についてはほとんど具体像が描写されていない。

 主観のみで進行していくとあまりにも貞吉についてのエピソードが漠然としてしまうからきっと母・ふみの手紙を交えてモノローグを進めたのだと思うのです。作中でも垣間見えるとおり貞吉はすこし自分を卑下していて、観ていると自分もそういう貞吉的な精神状態に引き込まれる、というのが本作の凄みだと思います。特に「飯盛山だな」以後、モノローグを一切挟まずに隊士たちが次々と凶刃に倒れ自害していく様子を観客が眺めているだけのパートは貞吉のフラッシュバックそのもので。

 恐らく本作が完全な第三者視点からのストーリー構造をしているのであれば、保鉄の行く末についてもきちんと描いてくれるのだと思います。でも描かれていない。なぜならこの物語は貞吉の見ていた世界の録画の再生でしかないから…! だからこそ、貞吉が追いつめられて自害しようとするもやりきれず、ふっと音楽が止まって「14年後」に戻ってきたとき、そこで貞吉の物語の再生は途切れる。

「結果からみれば、お前は生きてるわけだから。良かったんじゃないか? 誰かが残してやらんといかん」

「まだそうは思えません。だからあなたに逢いたかった」

 この物語はすべて、これ以後のシーンのためにあるといっても過言ではないでしょう。冒頭で現れた精神世界の悌次郎の語りの意味がわかる瞬間がようやく訪れるのです。そして観れば観るほどこの作品が重みを増していくのは、貞吉はこうして14年前の記憶に何度も何度も苦しめられて眠れない夜を過ごし、あのどうでもいい日常から飯盛山までの経過をフラッシュバックさせてきたんだろうな、という同じ気持ちに少しでも近づくことができるから。

 貞吉の苦しみを観客も同時に味わい、そして貞吉と観客のメンタリティがほぼ同一になった(貞吉と観客が同一の体験をした)ところに悌次郎が現れ、貞吉≒観客の精神を救ってくれる。

行こう、貞吉。なにがあっても後ろには俺たちがついてる

 悌次郎の言葉を斎藤に伝えてもらうことによって、ここではじめて貞吉は作中で自分が未だに生き残っていることへの承認を得る。 

あなたはいじわるだ。 

 そして完全に14年後の今へと回帰し、生の承認を得た貞吉は最後にひとつ夢を見る。ラストの集合シーンは貞吉ひとりだけが年をとっていて、妄想の世界で繰り広げられている情景だという解釈をわたしはしています…。14年後の貞吉にも手招きをする過去の悌次郎たちが貞吉の精神状態=過去の白虎隊に受容してもらったと感じていることをそのまま暗示している。何度も何度もフラッシュバックしたであろう隊規を読み上げる光景のなかで自分が輪の中心にいる。

 どうでもいいですが、この終わり方は個人的に毎回、筋肉少女帯の「レティクル座の花園」を思い出してしまいます…。

まぼろしでも夢でもいいじゃない!

ああ はじめて幸せ

ああ あの人がいる ああ 手を振って

みんなこれから幸せに暮らせるね

 貞吉は、恐らくずっとサバイバーズ・ギルトの症状に苦しめられていたと思うんです。「武士白虎」の物語は、斎藤というカウンセラーによる貞吉の治療過程を記録したドキュメントのようにも思える。

「土方さんなら俺とお前、どっちを選ぶと思う? 俺はどっちでもないと思う。だって、俺たちは虎だ」 

 たぶんこのセリフに意味があるのは、悌次郎が貞吉に対して「貞吉も"虎"だ」と承認してあげたことなんじゃないのかな、と思ったりもします。貞吉が保鉄に「お前も虎だから」と救済をもたらしたように、また貞吉は悌次郎にアイデンティティの救済を受ける。

 

雑感

 安西くんの演技はぶっちゃけ人間国宝級だなと思う。あそこまで役に没入できる人間というのをわたしは生まれてはじめて目にしました、ただただ平伏するばかり。貞吉が最期(になるはずだった)シーンで無我夢中で刀を振り回すんだけれど、血走った瞳いっぱいに白目を剥いて、そして時たま鼻水を全開にしながら息を荒くして人間の死に際を演じる彼はもはや若手俳優とかそういうのを超越してすごいなあと常々思うばかりでした。鼻水をめちゃくちゃ出しているときはどこに目をやっていいのかわからなくなるけれど、この人も生きてるんだな、とそのときに思う。

 このストーリーでは全員の「人間らしい」部分がひととおり描かれる。和助は保鉄をちょっといじめ、勝太郎は酔っぱらって倒れて、新太郎は拳を食べてスベり、茂太郎は怒って保鉄を殴る。儀三郎は女の子を変なプライドで振って、保鉄は問いつめられてもなにも言えず、土方は「陰湿だ」と斎藤にいわれているし。でも斎藤と悌次郎のふたりは、あまりそういう人間らしい部分が描かれない。それは貞吉にとってふたりが14年後の"今"までずっとずっとカリスマだったことを示している。過剰なまでにきらきらと美化させているのが、なおさら貞吉の記憶をたどっているようで、なんだか痛々しい。

 

君の病気は治らない だけど僕らは生きてく

神様 ぼくの神様 もしいるのならば

僕の言葉忘れてよ 君の名前教えてよ

涙なんて見せないで 君の地獄を見せてよ

僕の声は忘れてよ 君の声を聞かせて

  わたしの大好きなアーバンギャルドの「ももいろクロニクル」の一節です。

 この作品にわたしが深く没入してしまっているのは、貞吉の「取り残された絶望感」にやたら共鳴してしまっているからなんだと思う。ときどき記憶の中で起こる混濁に、灰色の眼をして向き合っている貞吉がわたしみたいだから。貞吉の苦しみはわたしなんかと比較にならないほど大きいと思うけれど。

 悌次郎くんは貞吉にとっての神様なんだけれど、神様すぎてあんまり生きている感じをうけない役だな、今回、と思う。もっと生々しい熱血な役だとおもっていたからなんだか拍子抜けした。

 えーと、もののふ白き虎、めっちゃ面白いです。ぜひみてください。よろしくお願いします。