Kanashibari (かなしば) 1984 Full album
はにわちゃんを知ったのは中学の時にインターネットで海外の日本サブカル愛好家コミュニティを巡回しながらレア音源の拾い集めをしていた時なのですが(戸川純さんのソノシートの音源とかあって楽しかった)、最初に「かなしばり」を聴いたときから衝撃がすごかったです。何だろうこれはという異物感と同時にフィット感がやってくる奇妙な気持ち良さと気持ち悪さ。音楽的にはものすごく気持ち良いのに冷静に考えてみると意味わかんないという整合性の取れていなさに強烈にハマりそれから早何年くらい経ち「全曲レビューを書いてみんなに布教しなければ」という気持ちになりました。 CDはプレミア価格がついています。読者の皆様にCDを貸したいんですが物理的に無理なのでYouTubeで聴いて下さい。これは仕方ない。超ファンになったらCDかLPを買いましょう。プレ値で。
はにわちゃんよりはにわオールスターズの方が有名かもしれないですね。はにわオールスターズとは楽器バカウマ超絶大人数集団によるすごいユニットです。来年3月に再集結コンサートをやるらしい。行きますね。オタクなので。
仙波流家元でお馴染み仙波清彦さん主導のもとレコーディングのため集められたと思われるはにわオールスターズ少数精鋭バージョンがはにわちゃんです。ボーカルは小川美潮さんではなく「芳賀ゆい」ボーカル担当として一部ではお馴染みの柴崎ゆかりさん。
この柴崎ゆかりさんのボーカルが、かわいい、凶悪、あざとい、透明感、伸び、コミカル、全部揃っていて無敵としか言いようがないんですね。全編通して聴くと、本当に同じ人なんだろうか?というくらいの多彩な表現がある。歌はめちゃくちゃ上手くて、音程が外れているところなど全く無いはずなのに、M3.「カタピラの花」終盤なんかに見られるキュートで調子っぱずれな歌い方にはBELLRING少女ハートなんかの「ヘタウマアイドル」に通じるところがあってかなり良いですね。
そんなわけで全曲レビューします。
M1.かなしばり
冒頭から強烈なロックチューンで、しかし初聴では気づかないのですが(部分的に)このアルバムの中では比較的正統派な部類。この曲がダメな人ははにわちゃんダメな人だし、ハマる人ははにわちゃんにハマると思います。唐突に乱入するパーカッション、謎コーラス(エフェクト?)、ストリングス、ギターに酔いましょう。そしてワケわかんなくなりましょう。
一度掴めば離さない なんでもかんでもやってやる
SでもMでも大丈夫 私も結構好きだから
絶対満足するわ 私と二人の生活
頭を下げてもダメよ 私は決めたの 今日から家を出るの
いいのよいいのよ泣かないで 女はどれでもおんなじよ
観念しなさい決めなさい そのうち好きにさせるから
あなたはかなしばり
ヤプーズ「ダイヤルYを廻せ!」所収「Men's JUNAN」が90年代最高峰のヤンデレソングなら、「かなしばり」は80年代最高峰のヤンデレソングだと私は思いますね。「Men's JUNAN」より歌詞酷いし。「Men's JUNAN」は最後の方反省してますけど、「かなしばり」は全く反省せずに「絶対子供を産んでやる♪」って歌ってますからね。とんだ曲ですよ。柴崎ゆかり嬢が可愛い声で歌うので最高なのですが。
終盤の若干ラリってるパートは必聴!
M2.終わんないの
非常にサイケデリックなDVの歌です。解釈合ってるかは不明ですが。柴崎ゆかり嬢の可愛い自己否定念仏が聴こえてきますね。超いいですね。
色んな楽器が両側で鳴りまくっているので何が何だかわかりませんがそれが癖になる。オリエンタルサウンドです。この曲にAメロとかBメロという概念は存在しないのでどう表現していいかは不明ですがとにかく途中で急に発狂します。それが良いです。
はにわちゃんのサウンドは全体的にドラムが強烈で好きです。「終わんないの」は特に印象が強いと思う。
M3.カタピラの花
ああ カタピラの花 夢にまで見た高嶺の花
幸運の花 これさえあれば私のもの
ああ カタピラの花 大きく育て 実がなったら
幸運の花 願いが叶う どんなことも
アルバムの中で一番好きな曲。幸運の花を育てたら肥料がめちゃくちゃ臭い上に結局実はならないという身も蓋もない歌です。
Bメロ(?)で鳴る重めのドラムが良いですね。この曲が一番ニューウェイヴしてると思う。オチちゃんとついてるし、間奏で鳴るギターのサイケ風味も好きです。全体的にこの曲はラリってる。何かぽわぽわしてるんですよね、音が。「かなしばり」と聴き比べるとものすごくぽわぽわしていると思う。
「ああ 早くしないと私は既におばあちゃんよ」の直後から入る幻想的なストリングスが超好きで、あ!死んでるんちゃう!?って思います。本当に死後みたいなストリングスですね。
M4.たたみホッペタ
タバコ タバコきつくてよい子 よい子倒れた
さらに さらにたまげた母も倒れた
床に突っ伏し たたみホッペタ
父は会社有給休暇 息子 息子殴れば
上がる 上がる血圧 やがて父も倒れた
みんなしっかり みんながんばれ
どんどん育って 過激に育っていく
親には親の 君には君の道があるさ
よい子倒れた 母は起きない 父も倒れた 一家離散だ
子供がタバコを隠れて吸ったら最終的に一家離散するという非常に荒唐無稽な歌。しかし4曲目くらいになってくると徐々に納得し始めてしまうのがはにわちゃんの怖さ。「みんなしっかり みんながんばれ」って、その状況でそんなに俯瞰することあります? めちゃくちゃ急に俯瞰するじゃないですか。いや「かなしばり」の曲はだいたい全部俯瞰なんですけど……。感情のこもってる歌ってそんなにないんですけど……。
「親には親の 君には君の道があるさ」のメロディーラインがめちゃくちゃ好きです。
M5.続・終わんないの
M2.「終わんないの」リミックス。「とっても♪」の歌い方が可愛い。
M6.インドラ・チョーク
M1.「かなしばり」に並んで結構ちゃんとロックしている曲。
夢の中でいいの ここはどこよ みんな飛んでけ
「和風テイストにのっかって歌われる調子っぱずれなロック」というのがはにわちゃんのスタンダードだと私は認識しているのですが、そういう観点でいくとこの曲が最もはにわちゃんのスタンダードに近いかもしれません。「はにわちゃんのスタンダード」って、自分で書いててワケわかんなくなってきたんですが。柴崎ゆかり嬢のボーカルが光る。びっくりするような高音を出している部分もあるので良い。
あと、テンテンテリンコって何ですか?
M7.みなと
冒頭の謎の砂みたいな音とシンセが心地いい。本当に謎の砂みたいな音。
「かなしばり」というアルバム内で柴崎ゆかり嬢のボーカルに最も驚愕するのはこの「インドラ・チョーク」→「みなと」の流れで、このギャップは本当にすごい。「みなと」の前半のボーカルは本当に天使としか言いようのない声なんです。
ここ 港が見える丘公園
当然若い二人はデート中
船がいる 船がゆく それをぼんやり見ているだけで日が暮れる
大切な時間でしょう なのに静かにしている お話もせず
三味線の印象的なサウンドとギターが心地よく絡み合う、多分このアルバム内では最も自然に近い(?)曲です。そして急に転調する。転調する時の「こここ」は何なのかずっと謎だし、その後ずっとL/Rに振られながら続く米津玄師「Lemon」顔負けの「ウェッ」みたいな声によるメロディーも癖になってくるので不思議ですね(米津玄師とは絶対違う使用意図だと思いますが)。最後はなぜか大団円。しかし要するに「ラブホ行こう」という結論で終わるのが"らしい"ですね。超好きです。
M8.体育祭
Kiyohiko Senba & the Haniwa All-Stars Live In Concert - 体育祭
名曲中の名曲。はにわオールスターズでも歌われているのでアルバムの中では比較的知名度が高いはずです。たぶん。
動物たちが体育祭をするという本当にただそれだけの和やかな内容の曲なんですが、とにかくスケールの大きさに終始圧倒される。空間が大きく広がっているような錯覚を覚えるサウンドにただただ浸る、ということしかできない。ボーカルの伸びも、パーカッションも、ドラムも、シンセも、ストリングスも、総合するともうオーケストラとしか言いようがないんじゃないかという音の豊かさで、たぶん私はこれを生で聴いたらめちゃくちゃ泣くんだろうなと思いますね。
M9.隅田川大惨事
最初に発売されたLPではこの曲がB面最後に収録されているんですが(以降の曲はCD版で初めて収録されたボーナストラック扱い)、大名曲「体育祭」ではなくこっちをラストに持ってくるところに良さを感じますね。
ぷかぷか浮かぶお船が素敵
屋形船転覆だ 芸者泳ぐ 魚すいすい
盛大なお祭り的和のサウンドと共に展開される「屋形船が転覆して大変」というだけの内容ですよ。明らかにふざけているとしか思えないんですが、曲がめちゃくちゃ良いので「コミックソング」と分類するわけにもいかない。
挙句の果てには間奏で男性のボソボソした「屋根が床ですねぇ」「屋根が床だね」という声がフィーチャーされるだけのくだりがあるので、すごいなと純粋に初めて聴いたときは感動したものです。そりゃ屋根が床でしょうね。転覆してるから。とにかくこの破滅的な詞とカワイイ曲のギャップを一度味わってみてください。脳は混乱しますから。カラオケで歌いたいのにカラオケに一切入ってないの悲しいな。
M10.あそび
私はめちゃくちゃ好きです。わかりやすくてポップでハッピーで超好き。お祭り気分ですよ。「かなしばり」でフィーチャーされるドラムは大体めちゃくちゃ乾燥してるタイプのドラムの音なんですが、この曲は特に乾燥しまくってて好きですね。
「のぼろうヒマラヤ いつも呼んでいる ほら」で急にトラックがまるっきり変わるんですが、なぜかものすごく荘厳に感じるので好きです。理由は不明ですが讃美歌のように聞こえる。
終盤のフェードアウトで「リズムに乗ってなりふり構わず会っちゃう リズムに乗って傍目を気にせず会っちゃう みこしも一人で持っちゃう 田舎で親父に会っちゃう」とどんどん歌詞が意味不明になっていくのが好きです。
M11.彼は外人
M13.「ウエイトレス」と共にコンピレーションアルバム「テクノマジック歌謡曲」に収録されていたりする曲。そのとおり非常にテクノ歌謡曲っぽいのですがやはり間奏のやたら壮大な展開なんかにはにわイズムを感じますね。ものすごく可愛い曲なので地下アイドルさんなんかにカバーしてほしいです。
あとサックスが使われていたりしてちょっと異色ですね。サックスと三味線が交互に訪れること、そうあります?
M12.家
ああ 昔のように押し入れに隠れ 願い事して 眠ってみる
何でこんなにいい曲が埋もれているんだろうと私が泣いたことでおなじみの曲です。もはやビョークに近いものさえ感じるオーラをまとったゆかり嬢の崇高で美しいボーカルと、音数の絞られたパーカッションが絡み合うオリエンタルな悦楽よ。これは聴く解脱です。これめちゃくちゃ良いサウンドシステムで聴いたら気絶すると思う。良すぎて。
そして、はにわちゃんの表現の広さに卒倒します。「隅田川大惨事」からそんなに時間経ってないのに「家」を聴いてしまったら混乱する。
M13.ウエイトレス
最後がこれなのもやはり"らしい"というか、っぽいなーと思います。ランチタイムに死ぬほど忙しくてつらいウエイトレスの歌です。ランチタイムの死ぬほどつらいバイトもはにわちゃんの手にかかればサイケなテクノ歌謡曲に変身するのですごい。やはり三味線とドラムが狂ったように鳴りまくります。あとウエイトレスがつらい歌が最終的に「無の境地になれるのでやめられない。天職はウエイトレス」という結論に至っているところがすごい。
「かなしばり」というアルバムの要約として適切な曲なのかもな、と今書きながら思っています。全ての要素が詰まってるし、名刺的な1曲なのかもしれない、と思いました。わかりやすくてキャッチーで素敵です。
なんか長くなっちゃった。とても好きなアルバムです。是非みなさん聴いて下さい。そしてハマったら3月のはにわオールスターズ再集結コンサートに行きましょうね。私も客席にいますので。