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推しの共演者が逮捕されて映画が白紙になった話

 調べに対し、「女性を見て欲求を抑えきれなかった。やったことは認めるが、企てていたわけではない」と供述。ただ、今月半ばから月末まで映画を撮影するため、宿泊していたホテルで、被害女性は夜勤で働いており、歯ブラシを口実に呼び寄せた可能性はある。犯行現場のホテルは「一切お答えできません」と話し、同署で詳しい動機や余罪を調べている。

 前橋で撮影していた映画は、女優、真野恵里菜(25)が主演する「青の帰り道」(公開日未定)。前日22日に市内の飲食店で、同じホテルに宿泊するスタッフと酒を飲んでいたとみられる。ただ、捜査関係者によると、犯行時は泥酔状態ではなく薬物の痕跡もなかった。また、同作の共演者は事件のため帰京し、撮影は中止。今後の予定は白紙になった。

 

 高畑裕太さんが逮捕されました。これ自体はもうインターネットのみなさんご存知だとは思うので、詳しく容疑や日テレの編集作業の大変さについて掘り下げることはしません。(24時間テレビのドラマ今から撮り直しって信じられない!うそだろ!?)

 逮捕のニュースを聞いたとき、わたしは「Seventeen夏の学園祭2016」という、推しの出るイベントの真っ最中でした。客席でたまたまニュースのヘッドラインを見たとき、頭が真っ白になりました。わたしの知っている情報が正しければ、(以下、容疑者で通します)容疑者は現在映画の撮影中で、地方にいて(その地方がおそらく逮捕されたとニュースにある群馬県前橋市なのだろうーー)、その映画の撮影には推しも参加しているはずだろう、と。

 映画はどうなるのか。というか、現在も撮影中であるはずの現地班は一体どんなしっちゃかめっちゃかなことになっているのか。そして推しは、たまたま、本当にたまたま、イベントだったので22日の夜には帰京しているはずであり、その場には居合わせなかった筈ではあるけれど、しかしこのことを知っているのか。わたしの憶測が正しければこの映画の撮影はすでに半分ほど進んでいるはずであり、容疑者は少なくとも「なかったこと」にできるようなポジションの出演ではなかったはずーーぐるぐる回る思考。気が遠のいていき、わたしはパシフィコ横浜国立大ホールの椅子に倒れこんでいました。ファッションショーの爆音が、ぐわんぐわんと脳髄を刺していく。それどころじゃない。本当にそれどころじゃない。けれどちゃんと、イベントは進んでいく。

 推しがずっと出ずっぱりのイベントというわけではなかったので、たまたま途中退出したトイレで知ったそのニュースでした、が。逮捕報道の1時間ほど後、出演コーナーのために登壇していた推しが、自分の出演するドラマを告知する声は、明らかに普段とは違って、脱力して動揺していました。(と、いうようにわたしが勝手に思っただけですけれど)

 ああ、これは知ってしまっているのかもしれない。

 ますます頭の中は真っ白になっていきます。映画はその時点では、未解禁でした。「撮影してること」「地方で長期ロケしてること」「高畑容疑者とか、真野恵里菜ちゃんとか(中略)とかが出演すること」「監督と制作スタッフ」「原作モノではない」と、いうことしか知らなかったのですが、多分ここまで知っているオタクは、この世に私とあと数人くらいしかいないでしょう。未解禁ならばなおさら、無かったことにされてしまうかもしれない。撮影の真っ最中に出演者が強姦致傷で逮捕されたとあらば、なおさらでしょう。

 いつの間にか私は、なぜか私が映画に出てるわけでもなんでもないのに、わあわあ泣いていました。推しが頑張ってることを知っていたからです。クランクインのときに、ずっと御一緒したかった監督と素敵なキャストの方々とお芝居する事ができ、幸せです、とSNSを更新していて、それは本当に良かった、と思ったばかりなのに。もう逮捕されてしまったことを嘆いても仕方ないのです。そこに残ったのは、映画がとりあえずにっちもさっちもいかなくなったという事実だけでした。

 生きていてもっとも困難であるのは、たとえば身内の誰かが不幸にあっても自分の人生は変わらずに続いていってしまうことであったり、たとえば誰かが逮捕されても共演者の人生は変わらずに続いてしまうことであったりするのです。 べつに、もう容疑者のことなんて知ったことではありません。非常に言い方は悪いですが、容疑者は芸能界を引退してしまえばいいし、隠遁生活でもなんでも勝手に送ればいいし、強姦致傷罪は3年を超える懲役の場合は執行猶予がつかず、起訴された場合は裁判員裁判となり実刑判決となる可能性が非常に高いのだそうです。きっともう今後の人生で、推しとかかわることは無いのでしょう。 推しにとってもう容疑者は他人になってしまったのです。

 でも、その後も推しの芸能人生は変わらずに続いていくのです。映画が1本しっちゃかめっちゃかになって、スケジュールも当然ながらしっちゃかめっちゃかになりましたが、他の仕事もあるし、変わらずに俳優としての活動を継続しなければなりません。 そこが困難で、不幸なのです。

 

 ステージ終了後に、ハイタッチイベントがありました。わたしは慌てて推しに、毒にも薬にもならない手紙を書きました。映画はキャストを変えて撮影続行するのかお蔵入りになるのかもわかりません。とりあえず、現状で励ませる最大限のことだけを、気をつけて書きました。

 「いま撮影してる映画のことなんだけど」わたしが言うと、推しは途端に我に返ったような顔をして「うん」と言ってきました。わたしが今まで見てきた中で一番の、推しの真顔でした。真剣を通り越して、悲しそうにも見える顔でした。「手紙に書いたから時間が空いたら読んで」「わかった」その悲しそうな顔を見ながらわたしはどんどん剥がされていきました。いま自分がオタクとして言える最大限のことがこれだけであるという事実が悲しくて終わったあとも泣きそうになりました。

 どうしたらいいかわからない。どうしようもないけどね。ぼんやりしながら、(でも、普通にイベントは楽しかったですけど)帰って推しのインスタグラムを見たら、容疑者のアカウントを推しがフォロー解除していたので、はぁ、とため息をついて、寝逃げしました。

 

 朝起きると、ニュースで続報が出ていました。映画のタイトル。真野ちゃんが主演だったこと。(これをわたしは知らず、容疑者が主演だと思い込んでいました。やたら推しと一緒に撮影してたから。ごめんなさい) 映画の出演者は解散を伝えられ、帰京して、映画も白紙になったこと。 あと、泊まっているホテルとか。(思ったより質素なホテルで、女性の夜勤がひとり、と伝えられていて、思った以上に予算が少なくて脱力した)

 白紙かー、うーん、と布団の中で言ってみましたが、白紙は白紙です。

 本当ににっちもさっちもいかなくなってしまった、ということなのです。

 真野ちゃんのブログはあまりチェックしていなかったので、今朝読みました。撮影に対して、とても真摯に向き合っていて、胸が痛んだ。そして悲しんでいるたくさんの真野ちゃんのファンを見て、知らなければよかったのだろうか、彼ら彼女らにとって、それを知ってしまうことは不幸ではないのだろうか、とぼんやり考えた。わたしも最初から何も知らなければよかったのにな、とひとり思った。撮影してることも容疑者が出演していることも。なんなら映画のことも。知るということは必ずしも人に幸福をもたらさない。むしろわたしはそのことで今まで不幸にばっかりになっている。

 推しのSNSに今のところ音沙汰はない。

 それでいい、と思う。きっと共演者のSNSにもスタッフのSNSにも誰一人として音沙汰はないだろう。沈黙、だ。朝起きたら共演者が強姦致傷で逮捕されたので撮影は中止でみなさん東京に帰っていただきますなんて言われたらまともなコメントなんてできるわけないしこの映画が永遠に黒歴史になって封印されて誰ひとりとして口に出さなくなってしまったってそれは別に不自然なことでもなんでも、ない。ただわたしは悲しい。この映画を観たかったひとりのオタクとして悲しい。すごく悲しい。慟哭してしまうくらいに。胸の奥をぐりぐりと刃物で抉られるようには。好きな人のお芝居を生き甲斐にしているのに。他者の逮捕に邪魔されて。お芝居が観られなくなってしまうかもしれない。わたしは死にたい。こんなことなら死ねばよかったとさえ昨日は思った。少し、落ち着いただけだ。